本と犬

洋書とオーディオブックについて語るブログ。最近は怪奇小説が多め。

しなやかに紡ぎ出す「奇妙な物語」 Women's Weird

Women's Weird: Strange Stories by Women, 1890-1940

作品データ

編集: Melissa Edmundson
出版社: Handheld Press
日本語版:なし
ジャンル:怪奇小説アンソロジー

編集者のブログ: melissaedmundson.com

概要と感想

 "Avenging Angels"(紹介記事はこちら)と同じ編者による怪奇短編アンソロジー。こちらの序文も読み応えがあって、作品の考察や作家紹介はとても参考になります。

◇収録作品

The Weird of the Walfords  by Louisa Baldwin
Let Loose by Mary Cholmondeley
The Giant Wisteria by Charlotte Perkins Gilman
The Shadow by Edith Nesbit
Kerfol by Edith Wharton
Unseen-Unfeared by Francis Stevens
Hodge by Elinor Mordaunt
Where Their Fire Is Not Quenched by May Sinclair
The Haunted Saucepan by Mergery Lawrence
The Twelve Apostles by Eleanor Scott
The Book by Margaret Irwin
Couching at the Door by DK Broster
With and Without Buttons by Mary Butts

 

 このなかで翻訳が見つかったのは、
・GilmanのThe Giant Wisteria(藤の大樹)
・NesbitのThe Shadow(影)
・WhartonのKerfol(ケルフォールの犬)
・SInclairのWhere Their Fire Is Not Quenched(胸の火は消えず)
・IrwinのThe Book(写本)
 ほかにもあるかもしれません。翻訳があるものはそちらを読みました。なかでも「写本」がおもしろかった。一冊の本に人生を翻弄される男の話で、高まっていく切迫感にぞくぞくしました。

 

 それでは、気になった作品を。The Weird of the Walfordsは「寝台」にまつわる怪奇小説。旧家を継いだ男は、代々の当主の「死の床」となってきた寝台を処分するのですが、壊して捨てたはずなのに、寝台の呪いからは逃れられず、幸せな新婚生活に死の影が忍びよってきます。寝台が別の形になって屋敷に戻ってくるというくだりがよかった。

 Let Looseはタイトルの通り、封印していた邪悪なものが解き放たれてしまう、という話。辺境の教会にすばらしいフレスコ画があると知った男は、複写させてほしいと司祭を訪ねます。男は長年閉じられていた納骨堂に入るのですが、扉を開けたのは大きな間違いでした。村の人々、そして男自身の身にも呪いが降りかかり……。暗く息詰まるような空気が立ち込める作品。著者のMary Cholmondeley(チャムレー?と読むのかな)は探偵小説なんかも書いているとか。

 Unseen-Unfearedは探偵小説っぽい作品。探偵の友人と食事をした帰り道、どうにも気分が悪くなった主人公は、「見世物小屋」の看板を見つけ、休んでいこうと(って休む場所としてはいかがなものか?)中に入ります。そこで身の毛もよだつもの――人間の恐怖が形を成したという、異形の生き物――を見てしまい、ショックと恐怖で気を失います。気がつくと探偵の友人に介抱されていて、事の顛末を聞かされることになるのです。主人公が散々な目にあう原因を作ったのが、探偵のうっかり(?)ミスっていうのがなんとも。 著者のFrancis Stevensは20世紀初頭にパルプ雑誌で活躍した作家で、ダークファンタジーの生みの親ともいわれているそうです。

 Hodgeは怪奇ファンタジー。人里離れた村で、父親とひっそりと暮らす姉弟。遊びといえば空想にひたることで、弟はとくに夢見がちな性格でした。ある日、空想の産物だと思っていた不思議な森を見つけたふたりは、そこで謎の生き物と遭遇します。生き物はふたりになつきますが、次第に姉のほうに執着するように。姉弟は、そっとしておくべきものを目覚めさせてしまったのかもしれません。Hodgeというのは「イギリスの百姓を表す典型的な名前」(日本風にいうと「田吾作」なんだとか)。田舎くさい、古くさいことを下に見たようなニュアンスが感じられます。時代に取り残されたものの悲哀を暗示する物語でした。

  The Haunted SaucepanMonster, She Wroteで紹介されていて、読みたいと思っていた作品です。「呪われた鍋」というモチーフがツボ! 家具つき物件に引っ越した主人公は、キッチンに不気味なお鍋を見つけます。火にかけてもいないのに、ぐつぐつ煮える音が聞こえてくるのです。その鍋で調理したものを口にして体調不良に見舞われた主人公は、友人とともに呪われた鍋の謎を探ることにしますが……。最後の展開にはユーモアも感じられて、おもしろかったです。Margery Laurenceのほかの作品も読んでみたくなりました。スピリチュアリズムに傾倒していた作家らしく、オカルト探偵シリーズとかも書いています。翻訳は残念ながらなさそう。

 The Twelve Apostlesは、イギリスの古いマナーハウスを購入した裕福なアメリカ人が主人公。敷地には領主の個人的な礼拝堂があり、かつて、学者でもあった礼拝堂付きの牧師がそこで怪しげな実験(錬金術?)をしていたというのです。牧師は謎の死を遂げ、館のどこかに宝が隠されているという噂を聞きつけた主人公は、宝探しに乗り出します。礼拝堂の壁に彫られた十二使徒のレリーフにヒントがあると考え、核心に迫っていくのですが……。謎解きの部分はわくわくしましたが、中英語?というのか、古い表現がたくさん出てきて読むのにとても苦労しました。

 Couching at the Doorは、デカダンスに傾倒した詩人が、刺激を求めてオカルト(黒魔術)に興じ、その結果、おぞましいもの――ふさふさした真っ黒な毛虫みたいなもの(むしろ癒しキャラ?じゃないかと)を召喚してしまいます。何をしても追い払えず、自分の身代わりに、若い画家にそれを「とりつかせ」ようとするのですが(ひどいですね)、果たしてうまくいくのか? 著者のDK Brosterは、Clairvoyance(超能力)という短編の翻訳が出ています。

 With and Without Buttonsは、集合住宅に住む姉妹が、隣人の男を驚かせて気を引こうといたずらを思いつきます。女ものの手袋の片方だけを男の部屋にに置いてくるという、他愛もないいたずらでした。ですが、それが家に憑いている幽霊を呼び覚ますきっかけとなってしまい、最後は男が危険な目にあうという笑えない展開に……。手袋というモチーフに、女性への固定観念(慎ましくあれ)とか抑圧といったテーマが読みとれる、というレビューも見かけました。

 

  なかなか個性的なラインアップのアンソロジーでした。

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(恐怖よりも不気味さが際立つ作品が多かったような……)