本と犬

洋書とオーディオブックについて語るブログ。最近は怪奇小説が多め。

Monster, She Wrote チャレンジその8:ヴァーノン・リー

 Mosnter, She Wroteチャレンジその8は、フランスに生まれ、イタリアで没したイギリス人作家ヴァーノン・リー。

www.bookdog.me

A Phantom Lover: And Other Dark Tales by Vernon Lee (British Library Tales of the Weird Book 15)

作品データ

著者:Vernon Lee
ジャンル:怪奇短編集
日本語版:ヴァーノン・リーの幻想・怪奇小説集といえば、こちら。

 

 ヴァーノン・リーはペンネームで、本名はヴァイオレット・パジェット(Violet Paget)。フランスで暮らしていたイギリス人の家庭に生まれたヴァーノン・リーは、フランス語、ドイツ語、イタリア語など数か国語を習得し、芸術への造詣も深いという、才気あふれる人物だったようです。早くから作家としての能力を発揮し、14歳で最初の小説を出版しています。

 ヴァーノン・リーの怪奇小説の特徴は、Monster, She Wroteによると、Ghosts(幽霊)ではなく、Hauntings(心霊)、つまり、科学的には説明不可能な精神現象が深く描かれている点だといいます。幽霊は、過去の人間が「思い残した」ことがあってこの世にとどまっている状態であり、なにかに「憑かれる」状態とはまた別物です。ヴァーノン・リーがテーマとし、描いたのは、歴史や祖先、芸術などに心を奪われ、極限の精神状態へと追い詰められ、「自分自身の中にとらわれてしまった」人物の姿なのです。
 ヴァーノン・リーによる最も有名な怪奇短編とされるPhantom Lover(幻影の恋人)『教皇ヒュアキントス』にも収録)でも、一族の汚点として伝わる過去の事件に精神を支配された妻と夫が登場します。とくに妻は、昔の衣装を身に着けるなど、心だけでなく身も「憑かれて」しまったように見えます。最後は不幸で不条理な終わり方をするのですが、こうした「悲惨で破滅的な最後」は、リーの作品では少なくありません。ただ怖くてぞーっとする話に終始するのではなく、読み手の心をえぐってくるような感触。リー自身、恋人(リーは同性を愛する人であったとか)との悲しい別れを何度も経験していたことが、少なからず影響しているのかもしれません。怪奇小説という形で、誰のなかにもある人間性の暗い部分、醜い部分をさらけ出し、描き切っているところに、リーの大胆さ、激しさ、強さを感じました。

 Monster, She Wroteでは、ヴァーノン・リーの作品とあわせて読むといい作品として、Charlotte Perkins Gilman(シャーロット・パーキンス・ギルマン)The Yellow Wallpaper(黄色い壁紙)があげられています。これまで、さまざまな解釈がなされていますが、鬱屈や抑圧、理屈では割り切れない、得体のしれない不安が感じられて、読むたびに心がざわつく作品です。

www.gutenberg.org

 

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(ジョン・シンガー・サージェントが描いた、ヴァーノン・リーの肖像。鋭い視線に、意志の強さを感じます。)