本と犬

洋書とオーディオブックについて語るブログ。最近は怪奇小説が多め。

悲しみを歌う Sing Your Sadness Deep

Sing Your Sadness Deep

作品データ

著者: Laura Mauro
出版社: Undertow Publications
日本語版:なし
ジャンル:ホラー、ウィアード・テイルズ、ダークファンタジー

著者のウェブサイト:

lauramauro.com

出版社のウェブサイト:

undertowpublications.com

概要と感想

 2018年の英国幻想文学大賞短編部門を受賞し、シャーリィ・ジャクスン賞短編集部門にもノミネートされた、イギリスの作家によるホラー/怪奇短編集。出版社はUndertow Publications。「不気味かわいい」表紙が作品の雰囲気を物語っています。
(※イラストはアーティストStephen MackeyStepmother with Scissorsという作品)

 全13作。読み終わって、作品の収録順に納得。というのも、この短編集、ホラーとひとくくりにできない作品が並んでいて、舞台もアメリカ、イギリス、ロシア、フィンランドなどさまざま。これだけバラエティに富んでいるのに、読みづらさはありません。ひとつひとつの物語のよさもそうですが、構成も優れているんだと思います。
 全体のトーンはダークですが、子どもが主人公の話や、動物や民話にモチーフをとったファンタジー色の強い作品もあったりと、ジャンルやテーマにとらわれない、いろんな意味で枠を超えた、味わい深い短編集です。次はどんな話がくるのか、わくわくしながら読み進めました。

 なかでもとくに心に残ったのは、冒頭のSun Dogsと、北欧が舞台のObsidian、宇宙に打ち上げられた犬ライカを題材にしたLooking for Laika、映像化できそうな物語性の高いThe Pain-Eater's Daughterでしょうか。

 Sun Dogsの主人公は、夜道を運転中、瀕死の少女を見つけます。ひとり住まいの家に連れて帰り、手当てをしたことから、ジューンと名乗る少女との奇妙な暮らしがはじまります。夜になると、どこかに消えるジューン。近隣の町では、獣が人を襲って殺すという事件が続いており、ハンターたちが主人公の家にもやってきます。彼らはジューンを探しているようでした。いったい、彼女は何者なのか……。最後のシーンが印象的な物語でした。

 どこか幻想的なObsidian(Obisidianは「黒曜石」という意味)は、フィンランドの民話が下敷きになっているようです。ピヒラは、病身の幼い妹アイノが、湖にとりつかれていることに気づきます。アイノは歌が聴こえるというのです。それは、湖の底にいるベテヒネン(湖の主というか、マーマン?っぽい存在)が孤独の悲しみを歌う声でした。ベテヒネンはわたしを呼んでいるの。だから行かなきゃならない。そうアイノは言います。アイノをベテヒネンから自由にするための、ピヒラの下した悲しい決断が、胸にささりました。

 Looking for Laikaは、収録作品中、いちばん好きになった作品。海辺の祖父母の家で夏を過ごす兄妹ピートとベバリーの物語。祖父が語った「宇宙に行った犬ライカ」の語に夢中になるベバリー。ピートはベバリーにお話をせがまれ、「ライカは生きていて、今も宇宙を旅している」という空想物語を語って聞かせます。のちに兄妹は悲劇に見舞われるのですが、それを乗り越えるのに「ライカ」が一役買うことになります。犬好きにはたまらない展開……。そして、最後の終わり方が素敵なんです。大人になったピートとベバリーの関係にほっこりしました。この話、ものすごくいいです。2018年の英国幻想文学大賞短編部門受賞作。

 The Pain-Eater's Daughterは、かなりダークですが、その分インパクトがありました。タイトル通り「人の痛みを食べる」(食べるというか、壺?みたいなものに取り込む)ことを生業としている「ペイン・イーター」一家の物語(一家はロマで、社会とは距離を置いて暮らしている)。その力は、恩寵でもあり呪いでもありました。ペイン・イーターは体を蝕まれ、痛みと苦しみのなかで死ぬ運命なのです。主人公のサラは、祖父を見送り、唯一の家族である父も失おうとしていました……。サラの選んだ道の先に光があることを祈りたい、読み終わってそんな気持ちになりました。

 どの短編にも、痛みや悲しみが描かれています。そのつらさを自分の一部として受け入れる主人公もいれば、耐え切れず、自分を見失う主人公や、自然を超えたなにかにすがる主人公もいる。確かにどの話もウィアード(人じゃないものもたくさん出てくる)なのですが、それでいて、とても人間的。そこが短編集としての軸になっていて、まとまりを出しているように感じました。語り口は落ち着いていて、短編ならではの無駄のない、選び抜かれた言葉が、じんわり染み込むのが読んでいて心地よかったです。

 著者の Laura Mauroさん、肉声をポッドキャストのインタビューで聞くことができます(326、327と2話にわたって放送されています)。

www.thisishorror.co.uk


また、Ptichkaという作品(収録作)の朗読が、こちらで聞けます。

soundcloud.com

 

 

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(犬が出てくる話には弱い……)