本と犬

洋書とオーディオブックについて語るブログ。最近は怪奇小説が多め。

イーディス・ネズビットの怪奇小説集

The Collected Supernatural and Weird Fiction of Edith Nesbit

作品データ

出版社: Leonaur
電子版:なし
日本語版:なし
ジャンル:怪奇小説短編集

出版社のサイト:

www.leonaur.com

概要と感想

『砂の妖精』など児童ファンタジーで知られる英国作家イーディス・ネズビットは、怪奇短編小説の名手でもあり、日本でもアンソロジーの常連のひとりです。そのネズビットの怪奇ものをまとめた作品集を見つけました。

◇収録作品

Vol.1
From the Dead
Hurst of Hurstcote(「ハーストコート城のハースト」)
In the Dark
John Charrington's Wedding(「約束を守った花嫁」)
Man-Size in Marble(「大理石の等身像」)
No. 17(「十七番」「幽霊宿屋」)※1930年代に雑誌に掲載
The Blue Rose
The Detective
The Ebony Frame
The Five Senses
The Haunted House
Dormant (A.k.a. Rose Royal) ※長編

Vol.2
The Haunted Inheritance
The Head
The House of Silence
The Judgement: A Broadmoor Biography
The Letter in Brown Ink
The Marble Child
Uncle Abraham's Romance
The Violet Car(「すみれ色の車」)
The Shadow(「影」)
The Third Drug(「三ツ目の霊薬」)
The Mass for the Dead
The Mystery of the Semi-Detached(「セミ・デタッチドハウスの怪」)
The New Samson ※中編
The Pavilion(「あずまや」)
The Power of Darkness(「闇の力」)
The House with No Address (A.k.a Salome and the Head) ※長編

 横に邦題があるのは、翻訳が出ているものです。「セミ・デタッチドハウスの怪」は自分で訳して翻訳同人誌『ほんやく日和 vol.1』に収録。これ以外にも、ネズビットは怪奇小説といわれるものを何編か残していますが、ここまでまとまっている作品集はめずらしいと思います。

 奇想天外なプロットを繰り出すネズビットらしく、怪奇ものもひねりがきいています。性分なのか、読者へのサービス精神なのか、とにかく「えっ」と思わせるしかけが(多少予測がつくものもありますが)仕込まれています。翻訳されている作品は、やはりよく書けていて、かつおもしろいものでした。なかでも評判が高いのはMan-Size in Marble(大理石の等身像)でしょうか。日本でも、ネズビットの児童文学作品以外でいちばん有名な作品といっていいかもしれません。Hurst of Hurstcote(ハーストコート城のハースト)は、どことなくポーの「アッシャー家の崩壊 」を思わせる(実際、それを意識して書かれているのかもしれません)、いかにもゴシックな雰囲気の作品です。

 

 未訳作品のなかで、気になった作品を。まずは、In the Dark。久しぶりに再会した親友がまるで別人のようになっていて、心配する主人公。とんでもないことをしてしまい、命を絶つことも考えていると打ち明けられます。主人公は、そんな親友を気晴らしにと海外旅行に連れだすのですが……。暗いのに滑稽さも感じられる、ネズビットらしい怪奇小説。

 No. 17は、ホテルが舞台の話。商人宿のサロンで、夕食後、怪談に花が咲きます。ひとりの男が、実際に体験したことだといって、「とある商人宿」で起こった不可解な話を始めるのですが……。怖い話というより笑い話といったほうがよさそう。皮肉らずにはいられないネズビット節?がさく裂していて、とても好きな作品です。

 The Headは、執念と復讐がテーマ。優れた腕を持つミニチュア作家と知り合った男が、実物大の街並みや人の模型を作らせて、見物客を呼び金を取ることを思いつきます。この作家が創作に精を出していたのは、過去の悲しい事件を忘れないよう、当時の現場を再現して残しておくためでした。完成した模型は想像以上にリアルで、人気を博します。そこに、ある人物が客として現れて……。ほのめかす程度で生々しい描写はありませんが、ラストはかなり残酷。ネズビット、たしか蝋人形が出てくる話も書いています(The Power of Darkness(闇の力)だったかな?)。

 The Judgement: A Broadmoor Biographyは、ブロードムーア精神病院という実在の病院が舞台。この病院には、精神疾患が原因で罪を犯してしまった患者を収容しているのですが、ある男だけは話が別だといいます。強盗に入り、そこで自分のやってしまったことに衝撃を受け、精神を病んだのだというのですが……。なかなかにグロテスクな話です。なぜJudgement(報い)というタイトルなのか、最後まで読むと納得です。

 The Marble Childは、教会の装飾のなかの「大理石の子どもの像」に魅了されてしまった少年の物語。Man-Size in Marble(大理石の等身像)は大人の像ですが、こちらは小さな子どもの像。少年は空想のなかで、子どもの像と楽しい時間を過ごすのですが、ずっと一緒にいたいと思うようになります。すると子どもの像は、そのためには犠牲を払わなければならないといいます。少年のとった行動は……。少年が美しい像に恋をするという、耽美的な雰囲気が漂う作品ですが、美しいままで終わらないのがネズビット流?

 The New Samsonは、マッドサイエンティストならぬマッド建築家が登場。著名な建築家の遺作となった建物には、実は恐ろしいしかけが隠されていました。大勢の人間の命が危険にさらされていることを知った弟子は、しかけを止めるべく建物へと急ぐのですが、果たして間に合うのか? ネズビットは、謎の薬品や化学実験など、科学(空想科学)のモチーフも好んで描いていますが、機械仕掛けというのは異色なのでは。Samsonは、あの「サムソンとデリラ」のサムソンだと思われます。ペリシテ人に復讐するため、サムソンがダゴンの神殿を引き倒すエピソード、そこがこの話の発想のもとになっているのかなと。

 長編のふたつは、おもしろそうなのですが、とにかく長い!ので手をつけていません。いつかじっくり読みたいと思います。

 

 以上のなかから、いくつか翻訳に取り組み中。仲間と作っている翻訳同人誌『ほんやく日和 vol.2』と、ネズビットの怪奇ものを集めた翻訳短編集に収録したいと思っています。夏ごろまでにはなんとか完成させたい……。

 

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(等身大の人形とか像って、妙な生気が感じられて、怖くなるときがあります……)