本と犬

洋書とオーディオブックについて語るブログ。最近は怪奇小説が多め。

Monster, She Wrote チャレンジその11:マージョリー・ボウエン

 Mosnter, She Wroteチャレンジその11は、さまざまなペンネームを使い、膨大な数の作品を残した作家マージョリー・ボウエン。

www.bookdog.me

Bishop of Hell and Other Stories

作品データ

著者:Marjorie Bowen
ジャンル:怪奇短編集
Audible: 

www.audible.com

The Crown Derby Plate「色絵の皿」のタイトルで翻訳されている。)


  マージョリー・ボウエン、本名ゲイブリエル・マーガレット・ヴィア・キャンベル・ロングは、経済的に不安定な家庭で育ち、美術学校に通うも芸術家として成功することはなく、独学で身につけた執筆業、つまり筆で家族を養うようになりました。娘がせっせと稼いだお金を、母親が使ってしまうという状況だったようです。歴史小説作家として世に出ましたが、あるときから怪奇小説を書きはじめ(幽霊屋敷に住んだことがきっかけだとか)、マージョリー・ボウエン名義だけでも150もの著作を発表し、人気作家の仲間入りを果たしました。
 ボウエンの怪奇短編は、現代でもアンソロジーなどで読みつがれています。翻訳が出ている作品としては、Florence Flannery(フローレンス・フラナリー)The Crown Derby Plate(色絵の皿)The Sign-Painter and the Crystal Fishes(看板描きと水晶の魚)Half-Past Two(二時半ちょうどに)The House by the Poppy Field(罌栗の香り)The Breakdown(故障)など。作品によって、ゴシックだったりモダンだったり、味わいがちがっていて、それぞれおもしろい。なかでも、看板描きと水晶の魚は、幻想的な雰囲気と謎めいた登場人物たちにぐっとひきこまれる、お気に入りの作品です(西崎憲さんの翻訳がかもしだす世界観も素敵)。

 原文でScoured Silk(洗いざらした絹)という作品を読んでみました。主人公は若い女性で、父親の友人である年の離れた男と婚約しています。ある日、訪れた婚約者の家で、亡くなった前妻のものだという、洗いざらして色あせ、つぎはぎだらけのシルクのペティコートを見つけます。なぜそんなものが出てきたのかと、怖くなった主人公は、婚約者の怪しい言動もあいまって、婚約を破棄しようと決心します。その矢先、当の婚約者が密室で不可解な死を遂げるのです……。その真相やいかに? 不気味で重苦しい空気がただよう、ミステリタッチの怪奇短編です。Mosnter, She Wroteでは、ダフネ・デュ・モーリア『レベッカ』に通じるものがある、と評されていますが、たしかにScoured Silkでも、前妻の見えない影響力が働いていて、主人公は婚約者に対して不信感をつのらせ、そしてラストで驚愕の真実が明らかになる、という展開。ぞくぞくしてスリル満載、読みごたえのある作品です。
 Scoured Silk、翻訳は出ていないようですが、実際に訳すとなると手ごわそうです。ボウエンの書く文章は、それほど難しくないというか、さらさらと流れるような、といえばいいのか、読むぶんには読みやすい。個人的に、ボウエン作品の醍醐味は、表現そのものよりも、物語の構造や流れ、全体がかもしだす雰囲気にあると感じています。なので、文章をそのまま文字通りさらっと訳してしまうと、つまらなく、陳腐になりかねない。といって、あまり凝った表現をつかうと、やりすぎ感がでそうですし。
 Mosnter, She Wroteでボウエンと読みくらべるといい作家として、大好きなイーディス・ネズビットがあげられていましたが、ネズビットは結構ひねた文章を書くんですよね(性格?)。でも、意外に訳しやすい。逆に平易な文章は、さじ加減が難しいところがありますね。

en.wikisource.org

 マージョリー・ボウエンは、SNSなどでも「もっと翻訳が読みたい作家」として名前があがっている作家なので、短編集とか出たら話題になると思うのですが、どうなんでしょう?  

f:id:book_dog:20210409132431j:plain
(ペティコートの写真を探しましたが、見つからず……ないのか……)