本と犬

洋書とオーディオブックについて語るブログ。最近は怪奇小説が多め。

Monster, She Wrote チャレンジその9:マーガレット・オリファント

 Mosnter, She Wroteチャレンジその9は、スコットランド出身で、長くロンドンに暮らした作家マーガレット・オリファント。

www.bookdog.me

Delphi Works of Margaret Oliphant with Complete Stories of the Seen and Unseen (Series Five Book 18)

作品データ

著者:Margaret Oliphant
ジャンル:怪奇短編集
 

 マーガレット・オリファントは多作な作家で、100作にもおよぶ小説と、50作を超える短編を残しています。同時代の女性作家の多くがそうであったように、オリファントも生活苦のために作家という職業を選んでいます。稼ぐために書いて書いて書きまくったんでしょう。作家として才能があったからこそできたわけですが、作品数が多いために次々と消費されていき、結局は忘れられた作家になってしまった、というところもあるようです。
 そんなオリファントの作品のなかで、最も評価が高いのが怪奇小説。The Open Door「廃屋の霊魂」というタイトルで『乱歩の選んだベスト・ホラー』(ちくま文庫)に収録)は怪奇短編の秀作として、アンソロジーの常連にもなっています。神への信仰、宗教観がオリファント作品の背景にあるとのことですが、神そのものが登場することはなく、救いの手も容易には差し伸べられません。また、三人もの子どもを亡くしたオリファントは、死後の世界にも強い関心を抱いていたそうです。幽霊話を書くようになったのは、そうした心情も影響しているのでしょうか。

 上記の短編集から、The Open Doorと同様、オリファントの代表作として知られるThe Library WIndow(「図書室の窓」)を読んでみました。語り手は(おそらく10代)の少女で、叔母の家で夏を過ごしています。家にこもって本を読んでばかりいるので、叔母の友人たち(老齢の婦人や紳士)にも夢見がちなおとなしい娘だと思われていました。少女は窓際の特等席から向かいの大学図書館の窓を眺めるのが、いつしか日課になっていました。その窓は、本物の窓なのか盲窓(形だけの装飾窓)なのか、最初ははっきりしなかったのですが、日々眺めているうちに、中の様子が見えはじめ、室内にひとりの男がいることに気づきます。男にすっかり心を奪われた少女は、向かいの窓を見つめずにはいられなくなります。不思議なことに、男の姿が見えているのは少女だけで、誰も信じてはくれません。ついに少女は、男がいるはずの部屋に乗り込むのですが……。
「窓の男」にとりつかれて次第に精神のバランスを崩し、現実が見えなくなってしまうこの少女は、どこかシャーロット・パーキンス・ギルマンの「黄色い壁紙」の主人公を思わせます。なぜ少女にだけ見えるのか。オリファントは、怪奇現象に科学的な説明を見出そうとする当時の風潮に逆らうように、超自然的なオチを用意していました(キーパーソンは叔母で、女性にだけ見えるというのもポイント)。といっても、オリファントはセンセーショナルな作品を書きたかったのではなく、この世界には理屈ではわりきれないものがあるという自身の考えが反映されているように感じます。実際、「センセーション小説」を嫌っていて、同時代に活躍したローダ・ブロートンなどを痛烈に批判していたとか。多作といっても、確固たるテイストを持っていた作家なのでしょうね。上品でしんみりした味わいが、オリファント作品のよさかなと感じました。
 The Library WIndow、とても読みごたえのあるおもしろい作品で、訳してみたいのですが、ちょっと(というかかなり)長いんですよね……。「訳したい作品リスト」に入れましたが、日の目を見ることはあるでしょうか。

 オリファントのOld Lady Mary(「老貴婦人」)という作品が、こちらのアンソロジーで読めます。ウィルキー・コリンズやメアリ・エリザベス・ブラッドンの作品も収録されていて、装丁もひじょうに美しい(表紙はジョン・ウィリアム・ウォーターハウスの「水晶玉」、裏表紙は「シャルロットの女」)、本棚に置いておきたい本です。

 
『ヴィクトリア朝怪異譚』
三馬 志伸:訳 作品社(2018年)

f:id:book_dog:20201218131548j:plain
(窓には扉にはないロマンを感じます……)