本と犬

洋書とオーディオブックについて語るブログ。最近は怪奇小説が多め。

「ぞっとさせる」レディたちによる怪奇小説アンソロジー The Lady Chillers

The Lady Chillers: Classic Ghost and Horror Stories by Women Authors

作品データ

出版社:Fast Editions
日本語版:なし
ジャンル:怪奇小説アンソロジー

概要と感想

 ヴィクトリア朝からエドワード朝時代に発表された、女性作家による怪奇小説アンソロジーです。同じようなセレクションのアンソロジーが山とありますが、タイトルと表紙に目を引かれました。”The Lady Chillers(ぞっとさせるレディたち)〟とはうまいタイトルですね。kindleで150円くらいと、ものすごくお買い得。収録作品はどれもパブリックドメインなので、Project GutenbergInternet Archiveなど、ネット上に無料で公開されているものもありますが、探すのが大変だったり、どこにも見つからない作品があったりで、やっぱりアンソロジーとしてまとめられているものは重宝します。こちらは、作品の頭に簡単な作家紹介が添えられていて参考になりました。まえから読みたかった作品が収録されていたのもうれしいところ。

◇収録作品

The Whispering Wall by Henrietta Everett
The Old Nurse’s Story by Elizabeth Gaskell
The Summoning of Arnold by Alice Perrin
The Open Door by Charlotte Riddell
Seen in the Moonlight by Ellen Wood
The Missing Model by Lettice Galbraith
The Dutch Officer’s Story by Catherine Crowe
Witnessed by Two by Mary Molesworth
The Picture on the Wall by Katharine Tynan
The Phantom Coach by Amelia Edwards
John Charrington’s Wedding by Edith Nesbit
The Shadow in the Corner by Mary Braddon
The Man with the Nose by Rhoda Broughton
How He Left the Hotel by Louisa Baldwin
The Haunted Organist of Hurly Burly by Rosa Mulholland

 

 翻訳で読んだのは、以下の5作品。
・GaskellのThe Old Nurse’s Story(老いた子守り女の話)
・EdwardsのThe Phantom Coach(幽霊駅馬車)
・NesbitのJohn Charrington’s Wedding(ジョン・チャリントンの結婚)
・BroughtonのThe Man with the Nose(鼻のある男)
・Louisa BaldwinのHow He Left the Hotel(このホテルには居られない)
 アンソロジーでおなじみの作家もちらほら。

 

 では、気になった作品を。まず、The Whispering Wall。部屋の壁から子どもの声が聞こえるという幽霊屋敷を訪れた主人公。屋敷の当主である友人とその声を聞きますが、何を言っているのかはっきりしません。そうこうしているうちに第一次世界大戦が勃発し、入隊した主人公と友人は、どちらも戦場で重傷を負います。死の床にある友人を見舞った主人公は、あの「声」の意味を知ることになるのです。戦争がテーマの、哀愁漂うゴーストストーリーでした。
 作者のHenrietta Everett(H. D. Everett)は、この時代の女性作家のなかでも注目している作家で(といっても残っている作品は多くはありませんが)、同時代の女性作家と同じく、男性名のペンネームを使って執筆していたようです。The Death Maskという怪奇幻想短編集がなかなかにおもしろい。そのなかのThe Crimson Blind(赤いブラインド)という作品は翻訳が出ています。

 The Open Doorは、いろんなアンソロジーにも収録されている作品です(同時代の作家Margaret Oliphantがまったく同じタイトルの怪奇短編を書いているのですが、こちらは「廃屋の霊魂」というタイトルで翻訳が出ています)。タイトル通り「開きっぱなしの間」の謎が語られます。閉めても閉めても開いてしまうドアがあるという、いわくつきの屋敷に向かった主人公。不思議な現象は、この世ならざるものと、生身の人間の両方が引き起こしていた、というミステリタッチの物語です。主人公が屋敷を訪れるまでの顛末を描いた前置きが少々くどい気もしますが、最後は手に汗握る展開で、無事謎も解け、ハッピーエンドに終わります。
 作者のCharlotte Riddellは数多くのゴースト・ストーリーを残した当時の人気作家で、怪奇アンソロジーの常連です。その割に、日本で翻訳紹介されている作品はあまり見たことがないような?

 The Missing Modelは職業モデルが登場するという、一風変わった怪奇短編。モデルを探している画家のもとに、ある日美しい女性が現れます。モデルをしているという以外、素性を明かそうとしません。おおいに創作意欲をかきたてられた画家は肖像画を完成させ、作品は画壇の話題を呼びますが、意外な事実が判明します。描かれた女性は、以前行方不明になったモデルとそっくりだったのです。画家の友人は、謎を解明しようと調査を開始するのですが……。と、こちらもミステリー風の作品。最後はポーの「黒猫」っぽい展開でした。
 訳したらおもしろそうですが、作者のLettice Galbraithは没年不明で、著作権が切れているかがわからない……ということで手がつけられずにいます。

 The Dutch Officer's Storyは、戦場が舞台の物語。見張り番の兵士が居眠りをはじめると、犬のゴーストがどこからともなくやってきて、起こしてくれる(なんて親切な!)というまことしやかな噂を聞きつけた将校。ゴーストなどいるはずがないと信じようとしませんでしたが、自分もその犬の姿を目にしてしまい……。犬が「超自然的現象」なのかどうかを確かめる手段がいささか乱暴で、その結果、最後に悲劇が起こります。いいゴーストには手を出してはいけないという教訓でしょうか?
 読み終わってすぐ、「好きな怪奇小説脳内リスト」に入れました(なぜって犬の話だから!)。作者の Catherine Croweは超自然現象に傾倒していたらしく、「ポルターガイスト」という言葉を最初に使った作家といわれています。

 The Haunted Organist of Hurly Burlyは、タイトル通り「呪われたオルガン弾き」の話。ある日、老夫婦のもとに息子の婚約者と名乗る女が現れます。息子は素行が悪く、葬式の席でふざけてオルガンを弾くという暴挙に出たため「死ぬまでオルガンを弾き続ける」という呪いをかけられ、その通りの死を迎えていたのでした。その死んだはずの息子の命を受けてやってきたという女は、あの呪われたオルガンを弾きはじめます。はたして悲劇は繰り返されるのか……。収録作品のなかでは、いちばんゴシック要素が強い作品でした。
 Rosa Mulhollandの作品はいくつか読んでいますが、情緒があって、古き良きゴーストストーリーを書く作家という印象。怪奇ものよりも児童小説(とくに少女向け)や詩を得意としていたようです。ディケンズに後押しされたという経緯があり、本作のようなゴーストストーリーを書いているのも頷けますね。

 

 ちなみに、このアンソロジーの表紙は19世紀ベルギーの画家アントワーヌ・ヴィールツの「麗しのロジーヌ (La Belle Rosine)」。死や怪奇をテーマにした作品が多い画家です。「早すぎた埋葬」とかも、怖い……。


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(開かずの間ならぬ、開きっぱなしの間……ゴーストの仕業なら、お行儀が悪い?)