本と犬

洋書とオーディオブックについて語るブログ。最近は怪奇小説が多め。

Monster, She Wrote チャレンジその5:エリザベス・ギャスケル&シャーロット・リデル

 Mosnter, She Wroteチャレンジその5はヴィクトリア朝時代にゴースト・ストーリーの流行を盛りあげた、エリザベス・ギャスケル&シャーロット・リデル。

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 ヴィクトリア朝時代(19世紀前半~20世紀に入るころまで)は、いわゆる由緒正しきゴースト・ストーリーが読者に好まれるようになり、次々と作品が生まれました。今回とりあげるギャスケル、リデルのふたりも、その時代に怪奇小説の書き手として活躍した作家です。

Elizabeth Gaskell(エリザベス・ギャスケル)

 

 エリザベス・ギャスケルは、当時、ディケンズやウィルキー・コリンズに負けないほどの人気を誇った作家で(ディケンズとは、作家生涯を通して仕事を共にした間柄)、Mary Barton(メアリ・バートン)をはじめとする名作の数々を残しています(未読ですが……)。
 ギャスケルの怪奇小説で、いちばんよく知られているのがThe Old Nurse’s Story(老いた子守り女の話)で、怪奇小説アンソロジーの定番にもなっています。老いた子守が語る昔話。異様な空気が漂うマナー・ハウス、鳴り響くオルガンの音、泣き叫びながら窓をたたく子どもの幽霊――これぞイギリスの伝統的なゴースト・ストーリー、というところ。どことなく、日本の怪談に通じるものを感じたのですが、姿や形は違っても、怨念が霊となってこの世に姿を現す、という考え方は古今東西共通するものなんでしょうね。
 Monster, She Wroteによると、ゴシック小説では雰囲気満点でも「実は怪奇現象じゃなかった」という種明かしがお約束だったのが、ギャスケルはゴーストをあくまでゴーストとして描いていて、そこが当時は斬新だったといいます。ディケンズは、自身が編集長を務める雑誌にギャスケルの作品を掲載するにあたり、「合理的な説明がつく話」を書くように言いますが、ギャスケルは独自の路線を貫き、ディケンズのアドバイス(というか要求)を突っぱねます。ディケンズはギャスケルの才能を認めながらも、腹を立てることもあったとか(「ギャスケル夫人ときたら、まったく!」みたいな?)。The Old Nurse’s Storyのラストには、何とも言えない後味の悪さが残るのですが、それこそギャスケルの狙い通りじゃないかと。そういう後味の悪さ、気味悪さが味わいたくて読者は怪奇小説を手に取るわけで、その辺の勘どころをギャスケルを意識していたにちがいないと想像しています。

 The Old Nurse’s Storyはこちらに翻訳が収録されています。


『ゴースト・ストーリー傑作選 英米女性作家8短篇 』
川本静子、佐藤宏子:訳 みすず書房(2009年)

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 Charlotte Riddell(シャーロット・リデル)

 
  シャーロット・リデルも優れたストーリー・テラーで、本国イギリスでは短編集やアンソロジーがいまも読み継がれている作家のようです。翻訳もちらほら出ていて、上記の『ゴースト・ストーリー傑作選』The Old House in Vauxhall Walk(ヴォクスホール通りの古家)という作品が収録されています。いわゆる幽霊屋敷もので、殺された館の主人が亡霊となって夜な夜な姿を現し、主人公にさまざまな幻影を見せます。最後には、その死の真相が明らかになり、主人公も結果的に得をするので、いいゴーストといえるのかもしれません。リデルの描くゴーストは、(生きている)登場人物以上に「生き生き」しているように感じます。
 Sandy the Tinker(宿なしサンディ)という作品では、悪魔に恐ろしい取引をもちかけられた牧師の顛末が語られています。テンポがよく、オチもひねりがきいていて、これまたよくできたゴースト・ストーリーです。翻訳はこちら。

 
『淑やかな悪夢』
倉阪鬼一郎、南條竹則、西崎憲:訳 東京創元社(2006年) 


 The Open Door(未邦訳)という短編も、幽霊屋敷ものです。いわくつきの館に残された謎を解こうとする、主人公の奮闘を描いた物語(感想はこちらで)。構成が巧みで、主人公をはじめとする登場人物もそれぞれ個性的、ちょっとしたアクションもあり、読みごたえがありました。短編にしては少し長いのですが、いつか翻訳に挑戦してみたい作品です。

 The Open Door (Collected Ghost Stories of Charlotte Riddell)という短編集に、リデルの怪奇短編がまとまって収録されていました。リデルの作品には、まだまだおもしろいうものがありそうです。

  

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(お屋敷×ゴーストは最強の組み合わせ)