本と犬

洋書とオーディオブックについて語るブログ。最近は怪奇小説が多め。

マレーシアの伝承をもとにした児童ホラー・ファンタジー The Girl and the Ghost

The Girl and the Ghost

作品データ

著者:Hanna Alkaf
日本語版:未訳
ジャンル:児童文学、ホラー、ファンタジー
舞台:マレーシア
Audible:

www.audible.com

著者のサイト:

hannaalkaf.com

 概要

 マレーシアの少女スラヤは、小さな村に母親とふたりで暮らしていた。いつもひとりぼっちだったスラヤのところに、ある日、不思議な存在が姿を現す。それは、名前も知らない祖母からスラヤが受け継いだという、精霊(ペレシット)だった。スラヤは友達ができたと喜び、ペレシットを「ピンク」と名づける。それからというもの、スラヤとピンクはいつでもいっしょ、ふたりでひとつだった。ピンクの恐ろしい面を見るまでは……。

感想

 マレーシアの児童文学作家Hanna Alkafによる児童向けホラー・ファンタジー。「ペレシット」はマレーシアに伝わるバッタのような姿をした精霊(ダーク・スピリット)で、幼くして亡くなった子どもの舌(!)から生み出されるといいます。ピンクというかわいらしい名前を与えられたペレシットが、陰に日向にスラヤを守る様子には、微笑ましささえ感じられましたが、スラヤが都会の学校に進学してから、暗い影が忍び寄ってきます。ピンクは、ペレシットのダークサイドをあらわにし、スラヤをいじめる上級生をひどい目にあわせ、スラヤに初めてできた親友に嫉妬し、暴走して大けがを負わせてしまいます。さらには、恐怖と悲しみに傷ついたスラヤがピンクとの別れを決意すると、今度はスラヤに幻影や悪夢を見せ、精神的に追い詰めていきます……まさにかわいさ余って憎さ百倍!でしょうか(でもちょっとひどいよ、ピンク)。
 物語の後半、様子のおかしいスラヤに気づいた母親が、お祓い師を呼んだことで状況は一変します。お祓い師は実はダーク・スピリットのコレクターで、ピンクをわがものにしようとたくらんでいたのです(この男が住まいにしているトレーラーハウスには、いろんなダークスピリットが瓶詰めにされています)。ピンクとふたたび心を通わせたスラヤが、ピンクを守るため、知恵をしぼり、戦います。そのなかで、ピンクがなぜ、どうやって生まれたのか、スラヤやスラヤの家族とのかかわりが明らかになっていきます。どこか冷たい印象もあったスラヤの母親と、魔女だったという祖母との複雑な関係も語られます。読んでいくうちに、この物語には自分の大切なもの、家族を守るというテーマが隠されていることがわかるのです。

 ペレシットやポロン、バジャンといった、マレーシアの伝承上の存在(おばけ)も続々登場し、ハロウィーンやクリスマス・シーズンの読書にぴったりの作品です。オーディオ・ブックで聴き読みしましたが、固有名詞などの発音がわかってよかった。そのうち活字版も読んでみたいと思います。マレーシアが舞台の児童文学を読むのは初めてでしたが、文化や宗教にまつわる描写(スラヤはムスリムという設定)など、英語圏の作品とはまた違った魅力がありました。翻訳したら楽しいだろうな……。

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(おばけ犬)