本と犬

洋書とオーディオブックについて語るブログ。最近は怪奇小説が多め。

グロテスクで美しいビーストたち All the Fabulous Beasts

All the Fabulous Beasts

作品データ

著者: Priya Sharma
出版社: Undertow Publications
日本語版:なし
ジャンル:ダークファンタジー、ホラー

著者のウェブサイト:

priyasharmafiction.wordpress.com

出版社のウェブサイト:

undertowpublications.com

概要と感想

 2016年の英国幻想文学大賞短編部門(表題作)と2018年のシャーリィ・ジャクスン賞短編集部門を受賞した、イギリスの作家によるダークファンタジー/ホラー短編集。表紙に引き込まれ、ペーパーバック版を出版社から取り寄せました。イラストは、日本のアーティストC7-Shiinaさんの作品(タイトル:Inner Child Reactor)。ダークで、精密で、冴え冴えとした美しさが、作品の内容にこれ以上ないほどぴったりはまっています。著者もイラストを選ぶ作業に加わったとのこと、納得です。

 収録作品は16作。どれも読みごたえがある、重厚な短編集です。タイトルにもビーストとありますが、人間のなかに潜む獣性、生の感情を、動物のモチーフで描いた現代の変身譚といえばいいでしょうか。鳥や海の生き物、昆虫に爬虫類も出てきます。植物や自然、神話を題材とした作品や、ミステリーっぽい作品も。どの作品もすばらしいのですが、なかでもとくに好きな作品として、The Crow Palaceと表題作All The Fabulous Beastsをあげたいと思います。

The Crow Palaceは鳥がモチーフで、表紙のイメージにいちばん近いと感じました。ジュリーとピッパという、まったく似ていない双子が登場します。ピッパは生まれつき体が弱く、ジュリーはそんなピッパを愛しながらも、同時にうとましく思っていました。なぜふたりは、それほどまでに似ていないのか? 鳥の習性が物語に意外な形で織り込まれていて、その残酷さにめまいをおぼえました……。どろりとした手触りがくせになる作品で、何度も繰り返し読みたくなります。

All The Fabulous Beastsに登場するビーストは、ヘビ。こちらも、ヘビの習性が物語に大きなドラマをもたらしています。子どもの頃から醜いと言われ続けてきたローラと、美しい容姿の従妹タルーラ。ジュリーとピッパと違い、このふたりには密かな共通点があり、それが最後にジュリーを運命から解き放つことに――。愛憎入り乱れた家族のなかで、ふたりが自分たちの本性をさらけ出し、力づくで生きる道を切り開いていくところがよかった。賞に値する作品だと思います。

 全編を通して印象深く感じたのは、ち密で濃厚な身体の表現。著者は医師でもあるそうです。人体のアナトミーを完全に理解しているからこその描写で、そのリアルさと、物語の幻想的な部分とのせめぎあいが、作品に独特の世界観をもたらしています。自分の体を持て余すときや、心と体がちぐはぐに感じるとき、爬虫類や昆虫のように変態できれば、ひずみを乗り越え、リスタートできる……かも? そんなことも、読みながら想像してしまいました。

 版元は、カナダの独立系出版社Undertow Publications。ホラーを中心に、限定版のハードカバーとペーパーバック、電子版で作品を展開しています。とにかくカバーが秀逸! 無理してでも揃えたくなります(今回も、あと2冊一緒に購入)。この出版社との出会いは、今後の読書を大きく変えてくれそうな予感がします。

 

 先日発表された2019年シャーリィ・シャクスン賞で、この著者のOrmeshadowという作品が、中長編(ノヴェラ)部門に選ばれました!

 

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(カラスはホラーにつきもの?)