本と犬

洋書とオーディオブックについて語るブログ。最近は怪奇小説が多め。

Monster, She Wrote チャレンジその10:イーディス・ウォートン

 Mosnter, She Wroteチャレンジその10は、作品がいくつも映画化されたことでも知られるイーディス。ウォートン。

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Edith Wharton: The Complete Supernatural Stories

作品データ

著者:Edith Wharton
ジャンル:怪奇短編集
Audible: 

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  アメリカの裕福な家庭に生まれたイーディス・ウォートンは、恵まれた環境に育ち、高い教育を受け、ヨーロッパを旅し、さまざまな言語を習得した人でした。ウォートンといえば、『汚れなき時代(エイジ・オブ・イノセンス)』『イーサン・フロム』「ローマ熱」など、自身の属する上流社会を舞台とする小説で有名で、ピューリッツァー賞を受賞し、ノーベル文学賞の候補にもなった作家です。一方、多くの怪奇小説を残しており、怪奇アンソロジーに収録されることもしばしば。Mosnter, She Wroteによると、ウォートンはもともと幽霊話が怖くてたまらなかったらしく、「幽霊話の本がある家では眠ることもできなかった」というエピソードすら残っているそうです。ですが、重い病に倒れ、長い療養生活のなぐさみにファンタジーや幽霊話を読むようになり、意識に変化があったといいます。自身が死に近づいたことで、幽霊が身近になったのかもしれません。体調が戻っても、ウォートンは不安や幻覚に悩まされ続けましたが、その体験が執筆のインスピレーションにもなったとか。幽霊話の恐怖を、幽霊話を書くことで克服したといえるでしょうか。

 ウォートンの怪奇小説の多くが翻訳されていますが、1冊にまとまっているものといえば、こちら。情景が思い浮かぶ精緻な描写、流麗な言葉運びが読んでいてとても心地よい、すぐれた短編集だと思います。

 

『幽霊』
薗田 美和子、 山田 晴子:訳 作品社(2007年)

 冒頭の亡霊犬が出てくる「カーフォル」は、犬好きにはつらくなる話でもありますが、ひたひたと迫ってくる異様な雰囲気に引き込まれます。何度読んでも味わいのある作品です。フランスの地方でありながら、ケルトの文化が息づくという特異な土地が舞台になっているのも、物語に不思議な情緒と深みを与えています。
 この短編集には、もとになった原書Ghost (1937年) に添えられていた序文の翻訳も添えられているのですが、時代の流れのなかで移り変わる「幽霊物語」のとらえ方や、そうした物語をつくり、読むということに対してのウォートン流の考えが記されていて、ひじょうに興味深いです。想像力について、ウォートンは次のように述べています。

 想像力というものは努力によって勝ち取るべきもので、それからゆっくりと吸収されなければならなかったのですが、想像力にかつては栄養を与えていたものがみな、今では料理され、調味され、小さな切れ端に刻まれて供されています。そんな時代の人にとって、創造的能力(読書も書くことと同様に、創造的行為であるはずです)は、急速に衰えつつあります。

 ウォートンの怪奇小説には、語られない謎や余韻が残るものが多いですが、読者もウォートンのいうゴースト・フィーラー(幽霊を感じる人)であることを求められている気がします。ウォートンも、誰もが幽霊を感じる心、感受性を秘めていると、創作者として信じたかったのかなと。ウォートンの時代から100年近く経過した今、現代人の想像力をウォートンならどう評するのか、たずねてみたい気がします。 

こちらでも、ウォートンの怪奇短編のなかでも評価が高い「邪眼(The Eyes)」という作品が収録されています。

 

『アメリカ怪談集』
荒俣宏:訳 河出文庫(2019年)

 Mosnter, She Wroteのなかでは、ウォートンの特筆すべき怪奇短編として、以下の作品があげられていました。
Afterward「あとにならないと」(『ロアルド・ダールの幽霊物語』早川書房)
Bewitched「魅入られて」(『化けて出てやる』新風舎)
Miss Mary Pask(ウォートンお得意の「予期せぬ結末」が興味深い短編だとか)

 AfterwardBewitchedShades of Darknessというシリーズでドラマ化されています。 

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(犬の幽霊話って、意外とありますね……)