Mosnter, She Wroteチャレンジその3はSFの先駆者マーガレット・キャヴェンディッシュ。
The Blazing World
※パブリック・ドメインなのでInternet Archive等のサイトでも入手可
作品データ
著者:Margaret Cavendish
ジャンル:SF
日本語版:
『ユートピア旅行記叢書2:月の男/新世界誌 光り輝く世界』
著者:マーガレット・キャヴェンディッシュ
訳者:川田 潤
Audible:
感想
17世紀イングランドの貴族(ニューカッスル公爵夫人)で作家、科学者、哲学者というさまざまな顔を持つキャヴェンディッシュ。当時「マッド・マッジ (Mad Madge)」とも呼ばれた(揶揄された)ほど、当時の女性としてはひじょうに先進的な思想と行動力の持ち主でした。Monster, She Wroteでは「当時のカーダシアンといっても過言ではない」と紹介されていますが、実際、キャヴェンディッシュはセレブとして、社交界や民衆に奇異の目で見られ、噂になることが多かったようです。
そんな賛否両論を巻き起こした彼女の生きざまが、The Blazing Worldにも色濃く反映されています。「ユートピアSFの先駆的作品」とも位置づけられるこの作品ですが、どう感想を述べていいのやら。異世界に意図せずして渡った主人公(若い女性)が、その「光り輝く世界」で女帝となり、その世界の民(虫人間、熊人間、鳥人間、人魚、蟻人間、蜘蛛人間、風人間、巨人などなど、多種族の人間がいる)との問答によりさまざまな科学知識を吸収し、権力を行使し、精霊と語り合い、著者の分身とおぼしき「ニューカースル侯爵夫人」の霊魂を呼び出して交流するという、とにかく壮大で、斬新で、意欲的で、奇妙で、示唆に富んでいて……一言ではとても表現できません。大真面目に書いているのだと思いますが、コミカルなやりとりもあって、キャヴェンディッシュ流のユーモア? 精霊とのやりとりも、こんな感じ。
「あの劇が書かれ、演じられてからだいぶ経ちますので、失念致しました」と、精霊たちは答えた。
「精霊にも忘れることがあるのですか」と、女帝は訊ね返された。
「ございます」と精霊は答えた。
失念……。妙に人間くさい精霊です。上司と部下のやりとりっぽい。
キャヴェンディッシュは、学問や公の場での発言、自分の意見を持つこと、行動すること、そういった当時の女性がしてはいけないと言われていたことを、すべてこの本の中で実現したかったのかもしれません。結びの言葉にも、こう記しています。
もしわたくしが創った世界がお気に召して、わたくしの臣下となりたいという方がいらっしゃるのでしたら、そのような状態を心の中で思い描いてみて下さい。それを思い描きさえすれば、心の中の空想力や想像力によって、本当にそうなれるのです。しかし、臣下でいることに耐えられないなら、自分自身の世界を創り、それを好きなように支配なさってはどうでしょう。
完全なる空想の世界を描いたSFでもあると同時に、自分自身のことを語った自伝的小説でもあり、女性の立場や社会との関係を考察するフェミニズム小説の一面もある。いろんな読み方ができる作品ではないでしょうか(うまくまとまらない……)。
(British Libraryより)