本と犬

洋書とオーディオブックについて語るブログ。最近は怪奇小説が多め。

「復讐」がテーマの怪奇小説アンソロジー Avenging Angels

Avenging Angels: Ghost Stories by Victorian Women Writers

作品データ

編集: Melissa Edmundson
出版社: Victorian Secrets
日本語版:なし
ジャンル:怪奇小説アンソロジー

編集者のブログ: melissaedmundson.com

概要と感想

 ヴィクトリア朝の女性作家による怪奇小説アンソロジー。編者は、19-20世紀の女性作家、とくに怪奇小説のジャンルで活躍した作家を中心に研究活動をされているMelissa Edmundsonさん。序文の内容が学術的で、この時代の作家や作品を知るうえで、とても参考になりました。

 Avenging Angels(復讐の天使)というタイトル通り、恨みだったり懺悔だったり、この世に残した思いをどうにかして訴えたいというゴーストたちが登場します。子どものゴーストが出てくる話もちらほら。ものすごく怖い話はありませんが、情緒や時代の空気感を味わえる作品が集められたアンソロジーになっています。

◇収録作品

The Four-Fifteen Express  by Amelia B. Edwards
Since I Died by Elizabeth Stuart Phelps
The Shadow In The Corner  by Mary Elizabeth Braddon
The Ghost At The Rath by Rosa Mulholland
From The Dead by Edith Nesbit
In The Séance Room by Lettice Galbraith
The House Which Was Rent Free by G. M. Robins
The Lost Ghost by Mary E. Wilkins
The Striding Place by Gertrude Atherton
The Prayer by Violet Hunt

 

 翻訳で読んだのは、
・EdwardsのThe Four-Fifteen Express(4時15分発急行列車)
WilkinsのThe Lost Ghost(迷子の幽霊)
・AthertonのThe Striding Place(川の渡り)
・Violet HuntのThe Prayer(祈り)
 
なかでもThe Four-Fifteen Expressは複数の訳が出ています。オカルト・スリラーというのか、いま読んでもじゅうぶんおもしろい作品じゃないかと。

 

 それでは、気になった作品を。まず、The Shadow In The Corner。天才だが世捨て人の主人公が、老いて仕事がしんどいという執事&家政婦夫婦の願いにより、若い女性を住み込みの小間使いとして雇います。しばらくすると、小間使いは生気がなくなり、みるみる弱っていきます。あてがわれた部屋(タイトル通り、「部屋の隅」)に不吉な気配を感じて、夜も眠れないというのです。幽霊など信じない主人公は、自らその部屋で寝起きして原因を探ることにするのですが……。話はこの小間使いにかわいそうな結末を迎え、後味の悪さを残します。怪奇小説らしい短編といえるでしょうか。Mary Elizabeth Braddonは、Lady Audley's Secretレイディ・オードリーの秘密)など、翻訳が出ている作品もあります。

 The Ghost At The Rathも、いわゆる「幽霊屋敷」もの。主人公がひょんなことから相続した古い屋敷で不可解な体験をします。過去に起こったとおぼしき恐ろしい場面が、ヴィジョンとして見えたのです。屋敷の「開かずの間」に秘密があると考えた主人公は、ひとり部屋に乗り込み、そこで昔の女主人のゴーストと対峙します。ゴーストは、生前にしたあることへの後悔から、屋敷を受け継いだ主人公に自分が犯した過ちを正してほしいと懇願するのですが……。なかなか凝った展開で、最後はハッピーエンド(といっても、結局主人公は屋敷を手放すことになる)で終わる、趣のある作品でした。ちなみに、作者の Rosa Mulhollandはかのディケンズに才能を認められた作家なんだとか。

 In The Séance Roomは、自分勝手な理由から、密かに交際していた恋人を自殺に見せかけて殺した(これがまた狡猾なやり方で……)男が主人公。その恋人がゴーストとなって現れ、追い詰められていきます。ベタな展開ではありますが、男が破滅へと向かうきっかけとなるのが、当時流行していた交霊会(Séance)や催眠療法だったというのが興味深い。主人公は結果的に自分で自分の首を絞めることになり、まさに自業自得という皮肉な結末になっているのも読みどころでしょうか。作者の Lettice Galbraithは、生誕年も没年も不明で、人物像はほとんど知られていないとのこと。

 From The Deadもおもしろかった。Edith Nesbitはこのところお気に入りの作家なので、ひいき目に見て(読んで)しまうところもありますが、才能あるストーリーテラーだけあって話の盛りあげ方・まとめ方がうまい。主人公の妻は、誤解とすれ違いから家を出て、行方不明になります。ようやく再会できたときには、妻は帰らぬ人になっていました。でも、話はそこからです。「死の床から」というタイトルがすべてを暗示しています。この話、最後の一行が怖い……。この一行のために書いたんじゃないかと思えるほど。収録作品のなかで、このラストがいちばんぞぞっとしました。

  

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(嘆きの天使?)