Mosnter, She Wroteチャレンジその6は、旅行家でエジプト学者でもあったアメリア・エドワーズ。
The Collected Supernatural and Weird Fiction of Amelia B. Edwards
作品データ
著者:Amelia B. Edwards
ジャンル:怪奇短編集
日本語版:なし(アンソロジーなどで翻訳が出ている短編もある)
ロンドンの銀行家の家庭に生まれたアメリア(アミーリア)・エドワーズは、幼いうちから芸術的な才能を開花させ、12歳(9歳とも)のときに詩集を発表していたといいます。行動力もあり、旅行が好きだったアメリアは、エジプトへ旅し、ナイル川をボートでさかのぼるという冒険のようなこと(当時の女性としては異例でしょう)もやってのけます。そのときのことを豊かな描写力と表現力で書き記した旅行記が話題を呼び、一躍人気ジャーナリストとなります。ヒエログリフを独学で学び、エジプト探検の基金を設立するなど、エジプト学者としても活躍しました。とあるアメリカの新聞が、アメリアを「世界で最も学んだ女性」と称したこともあるそうです。
そんなアメリアが、作家として選んだテーマが「怪奇」で、作風はエンターテイメント性が高いのが特徴だといいます。実際に何作か読んでみて、ほどよく「ぞぞっ」とした気分が味わえる、ヴィクトリア朝の怪奇小説らしい怪奇小説という印象をうけました。
よく怪奇アンソロジーに収録されているのは、The Phantom Coach(幽霊馬車)という作品。翻訳はこちらで読めます。
『英米ゴーストストーリー傑作選 』
佐藤 嗣二:訳 新風書房(1996年)
道端で立ち往生していた男が、たまたま通りがかった馬車に乗せてもらうのですが、それがとんでもない馬車――亡霊たちが乗る幻の馬車――でした。男の運命やいかに! というスリリングな展開。
以下にも、アメリア・エドワーズの怪奇短編が1編ずつ収録されています。
『淑やかな悪夢』
倉阪鬼一郎、南條竹則、西崎憲:訳 東京創元社(2006年)
収録作品:「告解室にて」(In the Confessional)
『鼻のある男―イギリス女流作家怪奇小説選 』
梅田正彦:訳 鳥影社(2006年)
収録作品:「第三の窯」(Number Three)
アメリアの怪奇短編を読んだなかで、いちばんおもしろいと感じたのが、The Four-Fifteen Express(4時15分発急行列車)。主人公は、列車のコンパートメント内で、顔見知りの男とでくわします。男は鉄道会社の役員で、難しい商談を控え、大金を持って移動中だと打ち明けました。先に列車を降りた男が、煙草ケースを座席に忘れたことに気づき、主人公は追いかけますが、男は忽然と姿を消し……。その後、あの男は実は何か月も前から行方不明になっていて、しかも大金を持ち逃げした疑いをかけられていると知ります。では、あのとき列車で一緒になったのは、いったい誰だったのか……? とてもよくできた怪奇ミステリーで、最後の謎解き部分は法廷ものといってもいい展開。アメリアの構成力とエンタメ性の高さが存分に味わえる作品です。こちらでその翻訳を読みました。
『ミステリマガジン1986年8月号』
(女性作家のゴースト・ストーリーが特集されているお宝号です。)
アメリアは女性の権利を訴えた活動家でもあり、LGBT作家としても近年、脚光を浴びているとMonster, She Wroteにありました。61歳で亡くなり(長年のパートナーだった女性と並んで埋葬されている)、オベリスクとアンクを模したお墓に眠っています。
(アンク。それにしても、お墓がオベリスク、というのもすごい……)