The Stranger Diaries
作品データ
著者:Elly Griffiths
日本語版:なし
ジャンル:ミステリー、サスペンス
舞台:イギリス ウェスト・サセックス
Audible: www.audible.com
著者のサイト:
概要
シングルマザーのクレアは高校で英語教師として働く傍ら、R. M. ホランドというヴィクトリア朝時代のゴシック作家の伝記を執筆している。勤務先の校舎はかつてホランドが住まいとしていた館を改装したもので、ホランドの書斎がそのまま残っており、事故死したという妻の幽霊が出るという噂もささやかれていた。
ホランドとの不思議な縁を感じながらも、仕事や日々の生活に追われ、執筆は思うようにはかどらない。そんなある日、クレアのもとに信じられない知らせが飛び込んでくる。同僚であり、親友でもあるエラが殺されたというのだ。遺体のそばには、ホランドの代表作といわれる怪奇小説The Strangerの一節が記された紙が残っていた。エラの死は、The Strangerとかかわりがあるというのか?
気持ちを整理しようと日記を開いたクレアは、思わず目を疑う。ページの隅に、何者かがメッセージを書き込んでいたのだ。「やあ、クレア。きみはわたしを知らない」事件は新たな謎、そして被害者を生み、クレアや娘のジョージアの身をも危険に巻き込んでいく……。
感想
ゴシックな雰囲気が漂うミステリー・スリラー。著者は、「The Ruth Galloway Novels(考古学者ルース・ギャロウェイ)」シリーズ(未訳)でも知られるエリー・グリフィス。
クレアは大学で英文学を専攻し、勤務先の高校でも社会人向けの創作クラスを担当するなど、文学の香りが漂う主人公です。クレアが研究しているというR. M. ホランドは架空の作家なのですが(M・R・ジェイムズがモデルっぽい)、その作品The Strangerからの抜粋がところどころ挿入されていて、なんとエピローグの後に書き下ろしの全編が収録されています! 作中作が、ひとつの作品として独立しているわけです。ディケンズ時代に書かれたといわれても納得できるほどの雰囲気と完成度で、クラシックな怪奇小説好きにはたまりません。
このThe Strangerと、クレアの日記が軸となり、ダークな物語が展開していきます。クレア、娘のジョージア、刑事のハービンダー(インド系イギリス人)の3人の語り手の視点が交錯して、最後はひとつに集約されます。最初はどこか冷たいイメージのクレアにあまり感情移入できなかったのですが、後半が近づくにつれ、クレアやジョージアが生き生きとしてきて、最後は「この人たちともお別れか……」となんだかしんみりしてしまいました。ハービンダーが、登場人物のなかではいちばんよかった。クールさも茶目っ気もあるキャラクターに魅力を感じました。
オーディオブックは、語り(キャラクター)によってナレーターが変わるスタイルなので、聴きやすいほうだと思います。エリー・グリフィスのオーディオブックを多く担当しているナレーターのようなので、作品とのはまり度も高いんでしょうか? ギャロウェイ・シリーズも聴いてみたくなりました。
本作は続編の出版が決まっていて、ハービンダーが引き続き登場するとのこと。シリーズ化されるのだったら、うれしいですね。2020年エドガー賞長編賞を受賞した作品なので、翻訳出版(できれば、ルース・ギャロウェイ・シリーズも)を期待したいところです。
(ヴィクトリア朝時代の邸宅が校舎……耐震が不安?)